歌を忘れたペンギンは


あの、つらつらと勢いで書いてしまったのですが、なんだか長くなってしまったので閉じておきます。もしお時間のある物好きな方がいらしたら読んでみて、ほわほわと色々想像してみていただけると嬉しいです。




あるところに、歌うのが大好きなアデリーペンギンがおりました。彼は物心ついた時から歌うのが大好きで、南極で暮らしていた頃は、それこそ毎日のように思い思いのままに歌を歌っていました。「今日のご飯の歌」とか「氷のかけらの歌」とか「お母さんの歌」とか、そんな他愛もない歌を。エサが食べられない夜も、吹雪がひどい朝も、歌を歌っていれば楽しく乗り切る事ができました。


そんなある日、とある観測船に連れられて、彼は日本にやってくる事になりました。両親や仲間達と離され、見知らぬ土地に連れて来られたアデリーペンギン。彼は日本に着くなり上野動物園に連れて行かれ、そこのペンギン達と一緒に暮らす事になりました。見知らぬ土地の、見知らぬ仲間達。そして、人間とゆう見知らぬ生物達。彼は最初の頃は、極度の緊張によりまともに喋ることすらできませんでした。


こんな状況の中、彼は「そうだ、歌を歌おう!」と思い立ちました。「歌を歌えば、嫌な事なんて忘れて楽しくなれる」と。そして彼が歌いだした、その時でした。人間達の「なんだこの変な音は」「気持ち悪ーい」といった罵声が飛び交ったのです。そう、元々ペンギンの鳴き声とゆうのは人間にとって馴染みのないもので、人間の耳にはあまり良く響きません。さらに悪い事に、彼の鳴き声は他のペンギンよりもっと響きの悪いものだったのです。


その“変な音”が彼の鳴き声だと分かると、ある者は邪な興味の目を、またある者は不快な目を、またある者は汚いものを見るような目を彼に向けたのです。人間の言葉は分からなくても、自分が嫌な目で見られているその雰囲気を敏感に感じ取った彼は、すぐに口をつぐんでしまいました。


それ以降彼は、歌う事はおろか喋る事さえも決してしなかったそうです。