におい


今日の東京の夜は「都会の涼しい夏の夜」の、においがした。日中ほかほかに温まったアスファルトが、すっと熱を冷ましていくにおい。人工的に植えられた木々達が、かすかに放つ光合成のあとの残り香。紫外線と二酸化炭素に悲鳴をあげていたビル達の、安堵の声。低い空の薄い雲から吹きつけられる、どことなく突き放されたような夜風。誰かといても一人ぼっちのような気がする人達の、声にならない溜息。そういったものたちが混ざり合った、寂しげでもあり涼しげでもある、都会の涼しい夏の夜のにおい。とても好きなにおいです。


都会は、田舎に比べると格段に「好ましくないにおい」が多いので、こうゆうのはとても貴重なのです(なかでも一番苦手なにおいは、“無関心のにおい”です。これを思いっきり嗅いでしまうと、脳内に強力なモルヒネが打たれたみたいに、極めて無機質になってしまう)。