“ハチミツとクローバー”という幻想を抱いて


なぜゆえにこれほど面白く、そして性別問わず皆に愛される漫画なのだろうかと、初秋の雨上がりの夜風を受けて散歩しながら考えてみた。

①現実感と非現実感のバランスの良さ

漫画の登場人物って、あまりに非現実感が溢れていると共感しづらいし、逆に現実的すぎると面白味に欠けたり世界観に浸りきれなかったりする。その点に於いて、ハチクロはとてもバランスがいい。竹本君や花本先生が程よい現実感を保ち、はぐや山田や森田が非現実感をあおる。そして、何といっても真山の存在が大きい。ある時は現実的で近しい共感を呼び、またある時は、ありえない言動でぶっとばしている。実際にいそうで、でも絶対いやしない青春大暴走のスマートな男子。後半はちょいと飛ばし過ぎていたような気もするけれど、彼の存在がハチクロのバランス感を安定させるのに一役も二役もかっていたように思う。

②共感できる言葉の数々

はぐちゃんや森田は、共感を誘うとゆうよりむしろ、ハチクロの世界観や漫画としての面白さを形作っている側だと思うので、共感を得られた部分は少なかったかもしれないけれど、そのほかのメンバーからは「ああ、それあるよなあ」とじんわり共感できる言葉や想いがたくさん感じられた。特に竹本君は、ハチクロに男性読者を持ってきた立役者だと思う。

③絵柄

まんま見た目の話なのだけれど。「少女マンガは見た目(絵柄)が厳しくて読めない」と感じている男性漫画ファンは多いと思う。ハチクロの絵柄は、勿論少女マンガ調なのだけれど、さっぱりとしていてそれほどキラキラしていなくて、少年誌と近しいところにあったように思う。


ありきたりな結論かもしれないけれど、「男性層をうまく取り込めた」ことが、ハチクロの大きな成功要因だったのではないだろうか。私のような社会人をやっている男衆にも、ハチクロは淡い幻想を抱かせてくれた。青春と恋愛、そして更には、「愛」とか「生きる意味」みたいな深いところまで。ひんやりとした現実感と、ほわほわの淡い幻想がごちゃまぜになって、素肌に沁み込み血液に溶けていき、全身がハチクロで満たされる感覚。この創作物に出会う事ができて、本当に幸せだなと思った。羽海野チカさんとスタッフの方々に、感謝。

ハチミツとクローバー 10 (クイーンズコミックス)

ハチミツとクローバー 10 (クイーンズコミックス)

追記

この最終回のラスト数コマは、一生忘れられない部分になりそうだ。あったかい気持ちで胸がいっぱいになった。