とるにたらないものもの 江國香織


とるにたらないものもの

とるにたらないものもの


文章の表情を、じっくりと観察するのが好きだ。


小説でも新聞でも雑誌の記事でもHOWTO本でも、長くても短くても中くらいでも、どんな文章もそれ独自の表情を持っている。新聞のニュース記事などは、比較的表情が分かりづらい文章が多いので、じっくりと目を凝らして耳を傾けて読まないといけない。しかし、あの膨大な情報量を“じっくりと”読んでいたら、一日が72時間あっても足りないので、大抵は表情など気にせずにささーっとナナメ読みしてしまう。そんな表情の分かりづらい文章だらけの新聞なので、社説とかコラムとかがふと目に入ってくると、その豊かな表情に思わず「おおっ」と思う。サハラ砂漠でぽつんと咲いているサボテンの花のような、静かで彩りある存在感。そんなわけで、新聞の社説やコラムを読むのが密かな楽しみだったりします。


話がそれてしまった・・・で、エッセイとゆうのは、特に文章の表情が分かりやすい読み物だ。変に探ったり勘ぐったり思案したりしなくてもいい。余計な気も遣わなくていい。何を考えているのか、楽しいのか悲しいのか、見てすぐ分かる。だからエッセイは、気軽で読みやすい。体調がヘビィで「小説なんぞ冗談じゃねえや」ってな時でも、エッセイだったら楽しく読めたりする。お気に入りのエッセイには、気の合う飲み友達のような親近感を感じる。


江国さんのエッセイは、ほわほわとしていて・すこし甘くて・確かな(時に偏屈な)こだわりがあって・じんわりと物寂しくて、とゆうような表情をしている。まるで霧に包まれた、あったかいわたあめのような感じ。芯に寂静と孤独を秘めた、あったかいふわふわのわたあめ。なんと素敵な文章だろう、と、感動と驚嘆と羨望が入り混じった、複雑なため息がつい出てしまう。このひとのエッセイを読んでいると。